総合医療・福祉施設ベーテル　BookBethel2.htm

　発行日の前日9月21日、べーテル理事長のウルリッヒ・ポール牧師と橋本孝先生（日本グリム協会会長、宇都宮大学名誉教授）を招いたミニフォーラムが宇都宮市内で開かれ、出席することができ、ポール理事長に直接質問をするという幸運に恵まれました。また、間近でベーテルの旗を見ることができ感激しました。
　2006年発行の「福祉の町ベーテル」と比べると、カラーの明るい表紙に先ず引きつけられます。歴史的な写真や生き生きと楽しく暮らす現在のベーテルの人々のカラー写真が豊富に掲載されていることで、ナチスの障害者安楽死計画という暗い話もくわしく載っている本とは思えないというのが第一印象です。そして、著者が何度もベーテルを訪問し施設の協力も得て膨大な資料を集め、ベーテルの歴史と精神がていねいに書かれていることに驚きます。
　ベーテルは、ビーレフェルト市にある19世紀に設立された施設だけではなく、総合医療・福祉施設としてドイツ国内に広く展開し、各種病院、学校、産業施設、作業所などの大きさとそれを支える人材に圧倒されます。ベーテルは「施しよりも仕事を」という言葉に象徴されていますが、日本の障害者就労施策とは比べものにならない深さを感じます。仕事をし余暇活動を楽しみながら「一生安心して暮らせる場所」がキリスト教の「隣人愛」に支えられていることが伝わってきます。
　ベーテルの歴史には　餓死者が出た第１次世界大戦時代、ナチスの障害者安楽死計画への抵抗と迫害などの苦しい時代を経ながら、時代と共に内容を充実させ質も変化してきたことがくわしく書かれています。全面的な介護が必要な人を支える施設もあれば、障害をもちながら質の高い仕事をして「自分の土地に自分の家を」目指すことのできる人々を支えたり、子供用ホスピスやホームレスの支援も行うなど、「総合医療・福祉施設」として、著者が「はじめに」で言うように、この本が「日本の医療や福祉の原点を見直す機会」というには、あまりにもスケールが大きいことに圧倒されます。ベーテルの活動から隣人愛に源を発する「合理的配慮」を感じます。「障害者権利条約」第２条の「合理的配慮」とは「不釣り合い又は過度な負担を課さない」範囲で行うものとなっていますが、ベーテルのような「心の豊かさ」があれば「合理的配慮の範囲」は広がるのではないかと思います。「障害者権利条約」が発効して１年以上経つにもかかわらず日本はまだ批准していません。矮小化された合理的配慮にならないことを願わずにはいられません。（2009.9.24）